漫画家の谷口ジローといえば今や「孤独のグルメ」で時のひとといった感じなわけなんだけれども、ハードボイルドな感じの作風以外の作品でも、実は世界的に評価されてて、個人的には旅ものも好きだ。

旅ものの漫画ってどうしても「ほんわかいい話」というより、僕はつげ義春みたく文芸ちっくなもののほうが本当は好きなんだけど、日本の漫画家が原作のフランス映画ってことでニュースになってたのを知って谷口ジローの「遥かな町へ」をレンタルしてみたというわけです。

 

「遥かな町へ」は私小説的な体裁をとっていて、漫画家である主人公トマ・ヴェルニアが電車を乗り間違えて14歳の自分にタイムスリップするところから始まる。

主人公は既に漫画家としてパリで成功してはいるものの、中年を迎え過去の名作を糧につつましく生活していた。ある日地方の展示へ趣き、帰りの電車を間違えてしまう。

 

Quartier Lointain01

 

車掌に間違いを指摘され、田舎町で電車をおりるとそこは偶然にもトマの故郷だった。母親の墓に立ち寄ると、目眩とともに気付くと1960年代、14歳の頃にタイムスリップしてしまう。

若かりし日々のイケメン(14歳)に戻る主人公。

 

Quartier Lointain02

 

戸惑いながらも、14歳をやり直そうとするトマ。主人公が成功した漫画の主人公が、実は初恋の相手がモチーフであることにも気付く。この彼女役がまた綺麗。

 

 

主人公が本当にやり直したいと思っている14歳の出来事。それは実は父親との関係。無口な父親。実は主人公が14歳の頃、父自身の誕生日の夜に家を出て行ったきり戻ってこなかったのだ。主人公は何故父親が出て行ったのか真相を確かめ、そして家を出るはずの父親を止めるため、その本当の姿を調べ始めるというストーリー。

 

 

トレイラーはこちら。

 

 

物語としては、「父親を止めることができるのか」というのが軸ではあるんだけれども、「いま父親となった自分」が改めて14歳を再体験することで、本質的に考えているのは自分自身のことであるという構図になってる。

それは14歳のあの日に出て行った父親と、それを何としても止めたいと願う48歳の少年という対比であり、「母や自分(主人公)、妹は父のことを愛していたといえるんだろうか、伝わっていたんだろうか」という疑問と「自分自身(主人公)は妻や娘に愛されているんだろうか」という同一線上にある疑問となってストーリーを展開させていく。

友人達との思い出や当時は届かなかった恋心っていう少年期の自分に、漫画家としてのルーツを発見する過程。そして、再体験した14歳っていうこの時間に、無理かもしれないと知りつつも試みる父親との対話。それが大人という存在に至る過程で、14歳のある数日間のさなか、静かでかつ劇的に展開していく。この展開が見事だ。わりと泣ける。いやマジで。

 

 

原作はこちら。

 

 

漫画を実写の映画にした例では、つげ義晴の「リアリズムの宿」とかかなり好きなんだけれども、そういうユーモアと写実性が交錯するような高度な作品の一方で、シンプルに心象風景とともに語られる物語というのも、また涙腺がゆるんで良いですな。

 

・谷口ジロー(Wikipedia)

・Quartier Lointain – Site officiel du film de Sam Garbarski