世界でも屈指のプロデューサーであり、ラッパーでもあるKanye Westの発言によって、アメリカのHIPHOP界隈が揉めに揉めている。

 

TMZライブ番組企画が発端

この話題はKanyeがTMZというウェブメディアのライブ番組中に「Slavery Is A Choice(奴隷制は、ひとつの選択だった)」と発言したことが原因だ。

この内容は大々的に取り上げられ、ラッパーのDaz Dellingerは地元のカラーギャングCripsに対して、「Kanyeをボコるべきだ」とすら発言した。世界がこのKanyeの意図に注目していて、BBC NEWSですら記事になっているという最悪の状況。

・Kanye West suggests African-American slavery was ‘a choice’ (BBC NEWS)

金融系のニュースサイトであるBloombergも「ADIDAS社長はKanyeの発言を非難」と報道。Kanyeがデザインを手がけるスニーカー「Yeezy」はADIDASの最上位ブランドだ。

・Adidas Sticking With Kanye West After His Slavery Remarks (Bloomberg)

ラッパーの発言というのは、いつの時代もいろんなかたちで世間を騒がす。これはアーティストとしての性なのか、2Pacは「お前の嫁とヤッたぜ」みたいな曲をつくってThe Notorious B.I.G.と喧嘩してたし、Kanye Westも盟友だったJAY-Zと最近まで揉めていたこともある。Kanye WestはJay-Zの娘までディスってたぐらいだから、こういう業界人は物議醸しがちみたいな部分は結構あるんじゃないかとは思います。

・ジェイ・Z、不仲が続いたカニエ・ウェストとの和解を語る。「俺はカニエを愛してる」

もともと相当なお騒がせ屋としても有名なKanyeは、2002年に交通事故に遭ってクリスチャンになったそうだ。この経緯はのちに出たアルバム「The College Dropout(2004年)」収録の「Through the Wire」という楽曲に使われる(元ネタはChaka KhanのThrough the fire)。これは初期の代表作でもある。

あと言及するなら、2013年のアルバム「Yeezus」というのは“Ye”という自身の愛称と、“Jesus”。つまりイエス・キリストの名前を組み合わせた造語だ。彼はこういうのを割と本気でやってるタイプのアーティストだったりする。そういうスピってる感じもあったりするところが僕は好きなんだけれども。

問題の映像はTMZの記事としても残ってるし、YouTubeにもアーカイブされています。

・TMZ Live: The Full Kanye West Episode (TMZ.com)

https://www.youtube.com/watch?v=lWJBWU7asEg

この動画だけを見てKanye Westというこの天才はイカれてしまった、ということもできなくはないのだけれども、この「奴隷制は選択だった」というセリフだけを抜き出して語ることは難しいんじゃないかなと僕は思っていて、そのことについて書いてみたいと思ってこの記事をどう書こうか考えている。ちなみに字幕でもある程度内容は理解できますが、邦訳記事を執筆している神のようなひとを発見したのでリンクを張っておきます。

HIPHOP好きなひとはとても面白いマガジンだと思うので、noteに課金しても損はないです。

 

TMZ番組で語った前後のコンテクスト

そもそも、事の発端としては、アップしたトランプ大統領の選挙スローガン「MAGA(Make America Great Again)」をモチーフにしたキャップをアップロードしたことが始まり。

トランプを支持するかに見えるこのツイート。アメリカはいま、人種間の分断が進んでいるという危惧がメディアを中心に糾弾されていて、その原因となっているトランプ陣営を支持するのは、まあ基本的にはタブーとされている雰囲気のなかでのこの発言。

Kanyeはこの後自身のオフィシャルサイト内で「YE vs The People」という楽曲を発表。この楽曲はKanyeは自身の意見を、そして反トランプ陣営の意見(要は世間の声)を代弁する存在としてT.I.を客演に迎えています。

よく録音に付き合ってくれたなと思うけど、リリック(歌詞)についても邦訳してるひとがいましたので紹介しておきます。

・Ye VS the People、訳しました。結論。I♡T.I.(MS. BRUTALLY HONEST)

まあ確かにお花畑感は否めない展開ではありますね。ただしKanyeが意見してるのって実は単にトランプ支持についてではなくって、おそらくポリティカルコレクトネスについてなのではないかな?とも思ったりします。

 

ポリティカル・コレクトネスとは

「ポリティカル・コレクトネス」という言葉は、メディア論で頻出するワードで、日本語でいうと「政治的に正しい言葉遣い」という邦訳がよく使われます。

ポリティカル・コレクトネスとは、日本語で政治的に正しい言葉遣いとも呼ばれる、政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語のことで、容姿・身分・職業・性別・文化・人種・民族・信仰・思想・性癖・健康(障害)・年齢・婚姻状況などに基づく差別・偏見を防ぐ目的の表現を指す。

1980年代に多民族国家アメリカ合衆国で始まった、「用語における差別・偏見を取り除くために、政治的な観点から見て正しい用語を使う」という意味で使われる言い回しである。「偏った用語を追放し、中立的な表現を使用しよう」という活動だけでなく、差別是正に関する活動全体を指すこともある。- – – ポリティカル・コレクトネス(Wikipedia)

この概念自体はとても素晴らしいものなんだけれども、このアイデアが思わぬ方向に進んでしまうこともある、というケースを皮肉っているのが、サウスパークのエピソード「Stunning and Brave(シーズン19)」。性同一性障害であることをカミングアウトしたアメフト選手を賞賛するメディア(世間)に対して、主人公のうちの一人が「そんなにすごいと思わんけどな」とぽろっと口に出してしまった結果、いろんなひとから非難されるという話。

世間的に「これが正しい「これを認めないのは悪である」という社会認識があるがゆえに、それと違う意見を認めないのは窮屈だという主張なわけですけど、これはこれで分かる気もする。特定の事実に対して「これは褒め称えないといけない」というのも何か変な話だ。しかも、素晴らしい行動であることは揺るぎない事実だってことが、事態を難解なものにしている。

 

Kanye Westの主張の真意とは?

TMZのインタビューを聞くと、Kanyeはトランプ支持なのではなく「自由な思考(彼は“independent thought”と呼ぶ)」の実践なのだという。しきりに「俺は俺のやりたい行動をとるし、言いたいことを言うんだ」と繰り返している。

合わせて繰り返してるのが「Love(愛)」だ。インタビューでは世界には愛が足りないと言う。それはおそらく特定の個人を愛するというよりも、世界に対して開かれた博愛的な概念で、クリスチャン的なものなんだろう。エミネムのようにトランプ大統領を批判し、ファンですら一線を引いていくことでアメリカを良くしようとするラッパーがいることも事実(e.g. エミネムがトランプ大統領に抗う理由 「第2の人格」で築いた名声とその代償)なわけだけど、Kanyeのアプローチはもっと壮大なスケールなのかもしれない。

奴隷制が続いていたのは事実だけど、400年も誰も立ち上がらなかっただろ?ぐらいのテンションで口をすべらせてしまったKanyeだけど、奴隷制を支持してるわけじゃないし「次の400年はそうあってはならない」とも言ってる。彼の本心としては、「奴隷になったときに、自分は奴隷だと思ってはダメでそこから自由にならなければならない」ということなんじゃなかろうか。それはメディアがトランプ非難を繰り広げるアメリカで、じゃあメディアの言う通りに悪態をつけばいいかというとそういうわけではなくて、もっと本質的にどうやったらアメリカを良くできるか議論すべきだ、という感じなんだろう。

世の中が一斉に何かを賞賛したり、非難したりするときがある。それは正しいのかもしれないけれど、それ以外の考えを排他してしまうという点において、正しさは寛容ではない。正しさを主張することと、寛容であることは別なのだ。Kanyeの問題提起はそういうことなのかもしれない。

世の中的に正しいとされていることを賞賛したり、悪とされているものを非難するのは実は簡単だ。それは流れに乗っていればいいだけだから。ただし本当に世の中を良くするためには、対話が必要なのだ。それをT.Iとの「YE vs The People」といった楽曲で体現してみせたり、そういう活動そのものが自由な思考なのかもしれない。

ところで。博愛主義的な意味の「LOVE」を楽曲のテーマにもってくるのはけっこう多いんですよね。Marvin Gayeの「What’s Going On」とかBob Marleyの「One Love」とか。僕が好きなのはベタですけど、The Black Eyed Peasの「Where Is The Love ?」とか(このプロデュースはwill.i.am)。

この記事書いてる途中に見つけたんですけど、リミックスも良いです。

 

・Kanye West (Wikipedia)

・Kanye West (Twitter)

・KanyeWest.com

 

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