子どもの頃に見たテレビドラマでは、主人公が割とその場の勢いで会社を辞めてフリーランスになったり、新しい会社をつくったりする。
偶然再開した大学の同級生と一緒に会社を起業したり、さらにいうと絶妙なタイミングで美女と出会ったりなどして成長していくその筋書きは、やっぱりどこか都合が良すぎるのが可笑しくって、完全にテレビのなかだけの話だと思ってた。
一般的には最初に入った会社に生涯勤めるのが日本では美徳とされているから、テレビドラマでは「そうなれない自分」を投影するために、そんな設定にしているんだろう。そう思ってた。ただ、大人になってみて感じるけど、(まあ広告とか映像関係に顕著なのかもしれないが)会社を辞めて転職したり、起業したりするのは結構よくある話だ。
「うちの会社来ない?」と気軽に誘われて転職してみるなんて、ドラマみたいな話だ。ちなみに僕はそうやって転職した。
「そろそろ会社辞めようかなって思ってるんですよね」
「あ、じゃあうち来る?部署つくって待ってるよ」
「本当ですか?じゃあ 2ヶ月後に辞めます」
直感的に「この判断は絶対に正しい。今は誰からも羨ましがられない転職だと思うけど、俺の判断は絶対に数年後成功する」。そう思って誰にも相談しなかった。止められると思ったから。その判断は間違ってなかった。決められた仕事をするのも良いけど、自分で仕事を開発するほうが楽しいし、自分も成長できる。最初は確かにつらかったけど、カンファレンスで登壇したりコンペティションでファイナリストに残れるぐらいにはなった。事実、会社の売上高はもう3倍になってる。
先日、久しぶりに新卒入社で入った最初の会社でお世話になった、(当時は)グループ会社だった先輩に会った。その先輩とはほとんどゼロから売上を一緒につくった仲で、先輩は僕が転職した後、もといた会社の子会社役員に昇進した。
ただ、もう辞めるんだそうだ。
「事業会社をつくりたいんだよ。一緒にやらない?」
そう言われた。お世話になったひとから信用されて、そう言われるのは恥ずかしいけど嬉しい気持ちはある。でも、直感的に違うなと思った。
転職して気付いたけど、会社に誘われるというのは結構ある。これまで、僕も数人に誘われたことがある。
世の中では転職で成功したとか、給料が上がったとか、そういうことばかりにフォーカスされがちだ。あとは自己実現のために転職してスキルをたくさん身につけたとか。会社を去っていったひとの話は武勇伝のように語られてしまうことが多いから。
ただ一方で「選ばなかった選択」というのもあるんじゃないかなと思ってる。辞めなかったという決断のことだ。それは武勇伝としては語られない。会社辞めましたエントリー結構多いけど、結論辞めませんでしたエントリーとか他人のブログで読んでみたいなあと思う。
先輩は数年後にはちゃんと成功してて、後悔すんだろうなあとかボンヤリ思いながら、ホテルに戻る帰りのタクシーから外を覗くと、ポツポツ雨が降っている。