カンヌライオンズというと、全世界の広告会社が競って自社のクリエイティビティを披露するアワードだ。広告業界にいるひとはもちろん、広告に携わりたいと考える就活生のなかにも、知っているひとはいると思う。

かくいう僕もカンヌライオンズで受賞した作品を眺めるのは好きだ。カンヌライオンズは様々な部門でBronze、Silver、Gold、そしてGrand-Prixと受賞作品が分かれていて。見るだけでも世界にはこんな素晴らしいクリエイティブがたくさんあるんだなあと思うし、ここで受賞した作品の傾向はその後1年全世界の広告業界のトレンドになっていく。だからこの舞台に立つ作品というのは、単に優秀な広告クリエイティブを決定するということ以上に意味がある。

例えば2018年の作品でいうとこんな感じ。Tideは有名な洗濯洗剤で、スーパーボールに流したCMはフィルム部門のグランプリだった。全世界のブランドがかっこいいCMを流すなか、Tideはそれらスーパーボールに出稿しそうなあらゆるブランドのCMフォーマットをパクって、「でも服が綺麗だからだいたいTideのコマーシャルと言っても良いよね」というCM。

あとは単なるコマーシャルでない方法論も。モバイル部門で受賞したPedigree(日本でも有名ですよね)は、愛犬がカメラを向いてくれない愛犬家のために専用のエサホルダーをつくったというプロモーション。ホルダーをスマホにつければ、みんなカメラ目線だ。

これ以外にも面白い作品や、深刻な社会問題にメスを入れる作品など、興味深いものはたくさんあって、毎年参考になる。

ただ、一方でなんとなく腑に落ちないなあともここ数年思っていて、海外のいろんな面白広告みたいなものをウォッチするのに飽きてきた。そのなんとなくヤな感じというのを言語化できないなあと感じていた矢先、アドタイのコラムに、電通の古川さんがコメントを寄せていて、ハッとした。

今年のカンヌが問われていたのは、グローバル・アワードの存在意義そのものであり、それに対する一定の答えを提出できたか否かだったと思われます。

これに対しては、ほぼ100%の参加者が否定的な意見ではないかと考えています。『新しいカテゴライズの意味がわからない』、『詰め込みすぎであわただしい』などなど、みんな、ますますわからなくなった、と答えるに違いない。

ここ数年、ソーシャルとテクノロジーにフォーカスしすぎた結果、『ヒューマン・インサイト・ベース』の表現という最も重要なスキルが影を潜めてしまった、あるいはその能力が失われてしまった状態が、いよいよ深刻な段階になったことが今年の特徴のひとつでした。多くの人が、スター・ワークスがないと、現地で言っていたのはそこに原因があるではないでしょうか。どんなに“進んだ”ワークでも、ヒューマン・インサイトなしで圧倒的なものは絶対生まれない。それが、クリエイティブの仕事の原則です。- – – ベテラン参加者は2018年のカンヌをどう見たか?現地で話を聞いてきた。

確かにカンヌライオンズで受賞する作品は素晴らしいんだけど、手法や表現テクニックが先行しすぎていて、もう少し企業や社会に対して提供するクリエイティビティの矢印が違ってきてるんじゃないか?そう感じる。

今回、カンヌからSustainableという概念が明示されたことが、グッドニュースです。ソーシャル・イシューをこのアイデア一発で解決しました、というビデオが表彰式でも大量に並ぶ。そんなに簡単に解決できる課題なんて世界にほとんど存在しないのに。アドバタイジング・エージェンシーにアワード目的ではない、継続的中期的な本当のソリューションが提供できるのかと、このカテゴリー・コンセプトは問いかけています。

  • インダストリー(広告業界)の外に出しても恥ずかしくない、本当の意味のソリューションであること
  • 最も高度にクリエイティビティが要求されるヒューマン・インサイト・ベースな表現になっていること(広告に限らず)
  • テクノロジーをはじめ、いままでにないものを駆使して初めて可能になる仕事であること

この3つの要素を含んだものが、エージェンシーとインダストリーが、10年後も存続していくために最低限必要な能力だと思います

なんと真っ当な意見なんだと思った。

ちなみに、僕がとても良いなあと感じたのはAppleのプロモーション。Appleの直営店Apple Storeでは、それぞれの店舗で、毎日いろんなイベントが催されている。音楽の作り方であったり、プログラミング、ブログの作り方などなど。その取り組み自体に対する受賞だ。

このプロジェクトをまとめたムービーは「Today at Apple」として公開された。現時点で60万再生にも満たないんだけれど、企業として一国家の教育に貢献していることが評価されたんだそうだ。

こういうのは本来プロモーションとは呼ばない。クリエイターも出品しない。というかこれはクライアント社内でのプロジェクトだ。だけど、それがきちんと賞をとっているというのがすごく良いなあとボンヤリ思った。