災害が起きると大抵の広告主はTV-CMの出稿を控える。

日本という国に災難が降りかかっているときに営利目的の広告を放映するのは憚られる、というのがその根拠で、たしかにある程度はそうだろうなと思う。実際僕の担当しているクライアントも、CMの表現を急遽差し替えないといかないことになったらしく、毎日チャットワークがバタバタしている(ちなみにそのCMのコンセプトカラーを決めたのは僕とデザイナーなんだけれども)。

3.11 東日本大震災が起こったとき、サントリーはACに差し替える変わりに、出演キャストに歌を歌ってもらうことで、代替CMを制作し放映した。

このCMを見ると、今になっても当時の心境を思い出してしまって、泣けてくる。

僕らはいま、ウイルスのパンデミックという未曾有の事態に直面していて、そのインパクトは世界大戦に匹敵するような災難だ。こういうとき、広告主は何をメッセージすれば良いんだろうか。そんななか、大塚製薬は新しいクリエイティブを公開するという英断を下した。この決断は広告史に残ると言っても過言ではないと僕は思う。

大塚製薬のポカリスエットは長年高校生を起用したCMを撮っていて、新しいCMのコンセプトは「合唱」だった。ただしこのご時世キャスト全員が集まって撮影したものを放映するのは、緊急事態宣言下のエリアでは特にクレームにも発展しかねない。そこで公開したのは、「それぞれのキャストが、それぞれの場所で、それぞれの表現で、歌う」というアプローチだった。これを見て、不覚にも僕は感動してしまった。

目覚まし
登校
ホームルーム
今日 日直誰なの トップニュース
起立 レイ 鳴ったチャイム
帰りに寄り道 コンビニ
たわいもない話 何時間もする
気になるあいつのストーリーをloop
過去だとか 将来はだとか
とりま正しい顔で演じきる
Break down!
仰げばとう と、、し、とかばっかり
まだエモさは腹八分目
後は2割? 足りねえ
僕だけの歌を歌わせてくれ
今しかない
この一瞬は
今を生きている
僕らの歌
今だ
今だ
今だ
今なんだ
歌おう 僕らの歌

80年代ぐらいまで、広告の表現は時代の最先端というか、消費者感覚の一歩先を行くのがセオリーだった。それが糸井重里の「おいしい生活」「**的生活のすすめ」みたいな新しい感覚の表現だった。ただしインターネットが普及して、10代の若者も簡単に自分のSNSアカウントをもてるようになった今、「時代の先を行く」は難しいのかもしれなくて、むしろ受け入れられるのは「時代の気分と寄り添っている」感だと僕は思う。

爆発しそうなエネルギーを溜め込んだ10代はいま、家でどんな気持ちなんだろうか。それに寄り添った時点でこの企画は素晴らしい仕上がりになることが約束された、そういう運命を勝ち取ったみたいな感じだ。

企画そのものは全く普通のものだ。でも、今しかできない。今だからこそ。そういう気概が生んだ素晴らしい表現だと僕は思う。たとえ消去法で選ばれたものだったとしても、この仕上がりの素晴らしさは何者にも変え難い、そう思いませんか。

完全版はこちらから。完全版のときに流れるBGMのエレクトロニカもすごく雰囲気あって良い。

こういう曲を、死ぬまでに一曲書けたら良いよなあ。

 

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