ヤクザ映画を観た後の観客は態度がデカくなると書いたのは、寺山修司だった気がする。僕らはそういう、ルールを逸脱した者たちの物語が好きだ。

法というルールから外れてしまった者は、世間の目に触れず、僕たちの知らないところでドラッグや武器を売りさばいたり、敵対する人間をいとも簡単に殺しながら暮らしている。普通に暮らしているひとなら、おそらく永遠にその世界に踏み入ることはできない世界だ。だから僕たちは、その世界を「裏」社会と呼ぶ。

同時に、見えない世界は好奇の目にさらされている。僕らはその世界を本当のところ知らないので、ひとたびニュースになると、皆の想像をかきたてる。そのほとんどは、多分ファンタジーで、今も世界のどこかでヒーローが世界を救っているとか、奇跡が起こっていると思うのと似ている。

About:John Wick

映画「John Wick」もそんな裏社会を描いた映画で、登場する人物は本来全員が悪人だ。キアヌ・リーブス扮するジョン・ウィックは凄腕の元殺し屋だし、彼を殺そうとするマフィアたちも悪人である。皆がドラッグを売買し、武器を不法に所持し、人を殺したことがあるんだろう。

ジョン・ウィックは妻を亡くし、いまは亡き妻から贈られた子犬をかわいがっていても、殺し屋だったという過去は変えることはできない。その唯一の楽しみが、飛行場で愛車をドリフトさせることと、妻から贈られた子犬との生活。

でも主人公のジョン・ウィックはこの映画のなかのマフィアたちと違って、「引退した」という意味において、二重の意味で世界からはみ出ている。普通の暮らしからも外れ、マフィアの世界からも外れてしまった、どこにも属さない人間になってしまっているのだ。だからこの、過剰でいて静かな暮らしが、ピンと張り詰めた糸のように、今にも崩れそうなバランスで成り立っていることを意識させる。事実、その暮らしは無残にも崩壊するわけだけど。

だからこの映画を観て「たかが愛車と子犬のために、何故こんなにムキになるのか」というコメントは、シナリオの説明としては適当かもしれないが、ちょっと的を外していると僕は思う。世間からも、裏社会からも外れ、どこにも行くあてが無いがゆえに、唯一の存在意義だったものに執着するしかできることが無いのだ。だからこの映画は、ただのアクション映画でも、ノワール映画でもない、爽快だが哀しいプロットになっている。そこがとても好きだ。

 

コンチネンタルでは、仕事をしてはならない

僕らは裏社会のことを知らないので、その世界のルールを知らない。

だからこそ、架空ではあるにせよその世界のルールというか、掟が出てくるたび、僕らは知らない世界に思いを馳せることができるし、物語の推進力はさらに増す。ギャング映画を成り立たせているものは、銃撃戦ではなく実は「その世界の掟」だ。

映画「ジョン・ウィック」には様々な掟が出てくるけど、僕が一番シビレたのは「殺し屋は、コンチネンタル・ホテルのなかでは仕事をしてはならない」というものだ。コンチネンタルの支配人は、正義を代表するわけでもなく、主人公を妨害するわけでもなく、この裏社会の番人であり、ルールを擬人化させているキャラクターだ。唯一主人公を「ジョナサン」と呼ぶ支配人のウィンストンは、掟を破るものを冷酷に粛清する一方で、父親のような顔を見せるときもある。日本のヤクザ映画の「人情」とか「仁義」というものをキャラクターにすると、多分こういう感じになるんだろう。

コンチネンタルはホテルでもあり、掃除屋でもあり、武器屋でもある。そしてその支払いは金のコインだ。コインを使えば、仕立て屋に防弾チョッキをみつくろってもらうのも、情報屋に暗殺ルートを調べてもらうのも、さっきまで殺しあっていた相手とコンチネンタルで一杯飲むこともできる。ニューヨークだけでなく、ローマでも使える便利な通貨だ。

あと「貸した借りは誓約として誓うもので、返さないといけない」とかね。そういう気の利いた設定が、ところどころにあって、僕らが真実かどうか確かめようも無い世界を、よりくっきりとリアルに感じさせてくれる。そういう脚本が僕は好きだ。

 

ルールとそれを外れることの対比

「John Wick」そして「John Wick:Chapter 2」というこの世界は、そういういろんな掟とルールの上に成り立っている。それは、一般社会でいうところの法の庇護と対比になっているからギャング映画なのだし、さらにその裏社会の掟とそこから外れていく主人公という対比があることで、それは物語が進行していく原動力になる。ジョン・ウィックの状況は、もう登場した当初から最後まで、もうこうなる運命なのだ。

2作品を通じて、いろんな登場人物たちから「俺たちはもう普通の生活はできない」とか「もう呪われてるんだ」みたいなことを言われるんだけど、言われるたびに暴力的に、過剰になっていくしかないプロットは、シンプルだけど徹頭徹尾スジが通っているし、変なサブプロットがあるよりも抜群に良い設計だ。

 

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正直アクションシーンは変なカンフーみたいでマトリックスだし、ギャングってそんなに肉弾戦やるのかなみたいな疑念も浮かぶシーンばかりなので、酷評も多いんだけど、序盤のセリフで説明せずにテンポ良く背景を見せていく感じとか結構秀逸だなあと思うし、僕は結構好きですね。

もう続編は出ないだろうな。それで良い気もするけど。

 

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