HIP HOPという路上のカルチャーは、ラッパーやプロデューサーといった新しいビジネスマンを輩出しているのだけど、Gacktが実業家だというのと同じぐらいしか知られていない気がする。
Apple傘下のBeatsというヘッドフォンブランドが、Dr Dreというアメリカ屈指のラッパー兼プロデューサーによって設立されたことを知っているひとは少ないし、EminemやP Diddyがラップ業よりもサイドビジネスである酒類事業のほうで儲かっていることを知っているひとも少ない。
日本でいうなら、Zeebraがニッカウヰスキーの社長みたいな感じと言ったら、お分かりいただけるだろうか。
成功するラッパーたちがいる一方で、詐欺まがいのビジネスに結果として巻きこまれてしまうひともいて、50centなんて良い例かもしれない。ごりごりのギャングスタラップ出身者には、そうした妙な取り巻きが多い気もする。
そうしたダメな感じのラッパーとして注目したい最有力候補がJa Ruleだ。2000年代の同時期に活躍した、テイストも似ているDMXなんかがヨーロッパで活躍するなか、Ja Ruleはとあるベンチャー企業の協力者となった。それがFYREという画期的な(ものになる可能性があった)サービスだ。
FYREというサービスは簡単に書くと、タレントキャスティングを簡単にするサービスで、金さえあれば超有名ミュージシャンでもライブに呼ぶことができる。その目玉がJa Ruleだった。Jaの肩の入れようから察するに上場前の株なんかも購入するかたちで出資しているんじゃなかろうか。
そうして始まったのがFYRE Media。共同出資者のBilly McFarlandはサービスのプロモーションのために音楽フェスを開催することを思いついた。その最悪な思いつきが「FYRE Festival」だった。FYRE Fesはパブロ・エスコバルが所有していたプライベート・アイランドへ、小型ジェット機で乗り込むチケット100万円のフェスイベントとして企画され、プロモーションビデオも制作された。
優雅なコテージ、セレブやモデルたちと一緒に楽しめるビーチゾーン。Instagramに突如投稿されたオレンジ色のタイルを目にした、小金持ちなミレニアル世代はこれに飛びついた。1投稿につき25万ドルはするインスタグラマーは、こうした小綺麗なイメージには格好の広告塔だ。
結論から書くとこのフェスは失敗に終わった。実際にチケットを購入した参加者が目にしたのは、コテージなんかじゃなく緊急避難用のテントだったし、ディナーは不味そうなチーズにパンのランチボックス。そしてそもそも、当初計画されていた優雅なプライベート・アイランドでもなかった。
最終的には詐欺罪で訴訟を抱えることになった、この事件の顛末をまとめたドキュメンタリーがNetflixに公開されているのだけど、これがとても面白いのでオススメ。Billy McFarlandという人物はベンチャー起業家というよりは、どちらかというと上場詐欺というか、怪しいビジネスの連続起業家といった感じで描かれていました。
参加者のほとんどがアメリカだったことから、日本国内ではそんなに問題にはならなかったこの事件。アメリカではロイヤリティフリーの画像・映像素材を提供しているShutterstockが、FYRE FestivalのプロモーションムービーをパロったウェブCMを制作したりもしています。「そんなにお金をかけなくても、クオリティの高い映像はつくれますよ」ということなんだろう。
いじわるな言い方をするのであれば、中身が全く無かったとしても広告はつくれてしまうという悲しい現実を証明してみせたということなのかもしれない。
数百万から数千万人のフォロワーをもつモデルやインスタグラマーたちは、言われるままにFYRE Festivalを宣伝するオレンジのタイル画像を自身のアカウントから投稿した。それは皮肉にも、FYRE Fesには何にも中身が無かったということを、結果として象徴する投稿になってしまった。後日彼女たちからは「こんなことになるなんて、思ってもみなかった」みたいな感じのリリースがなされることに。
カメラマンや誰かのスマホの前でポーズをとれば、それだけで大金が動くのはインスタグラマーやモデルだけじゃなくて、タレントなんかもそうなんだろうけど、自分が何を宣伝しようとしているか分からずに生きているというのはどんな感じなんだろうか。
日本だとペニーオークション騒ぎなんかが記憶に新しいけど、ああいうのって結局事務所じゃなくて、取り巻きの連中がそういうことをそそのかすんだろうなあ。金銭の授受などの関係性を明示するとか、そういうルールを本人たちが知らなかったことも原因のひとつではあるんだろうけど。
ものすごく興味深い事件ではあるんだけど、話が複雑すぎて結論として何書きたかったのか、忘れてしまったので、このあたりで筆を置くことにします。