TVを見ていないので、日本でどれだけ注目されてるかは分からないのだけれども、Childish GambinoことDonald Gloverの「This Is America」という楽曲が、全米チャートを駆け上がっている。

公式動画だけで1億8千万再生数を稼いでいるところを見ると、実際にはもっと多くの回数がYouTubeでは再生されているとのではないかな。

俳優、コメディアン、ラッパーと多彩な顔をもつDonald Gloverがステージ上でラップする際に使っている名義が「Childish Gambino」。彼はもうChildish Gambinoとしての活動を辞めると宣言していて、あと1枚だけ最後のアルバムを出すと語っていた。そんな状況で、5月5日日本ではGW真っ最中のなかリリースされたのが、この「This is America」のミュージックビデオ。

プロデュースはDonald Glover本人と、スウェーデン出身のLudwig Göransson。Ludwig Göranssonは映画アベンジャーシリーズの「ブラックパンサー」で、劇中の映画音楽を担当した音楽家でもあり、Childish Gambinoへの楽曲提供を割と初期から手がけてる。

 

複雑に意味が構築されたリリック

軽快でレイドバックした手拍子リズムのコーラスから始まる「This is America」は、リズムをとるためだけに入れられた「yeah」というコーラスと、「go away」という強い語気を含む不穏なフレーズが対照的なイントロから始まる。

Yeah, yeah, yeah, go, go away
どこか行ってしまえ

二つの要素が対立したり、同居しながら、複雑に絡み合って成立しているもの。それがアメリカだ。白人と有色人種、問題と無関心、カネと成功、そして銃と殺人。冒頭で語られるのはパーティーとカネ。もっとも導入として人間は楽しいことにしか興味がない、と言っているようにも思える。

We just wanna party / Party just for you
ただパーティーがやりたい。そう君のための

We just want the money / Money just for you
みんなカネが欲しいんだ。そう君のための

I know you wanna party / Party just for me
君だってパーティーがやりたいんだろ?そう僕のための

Girl, you got me dancin’ / Dance and shake the frame
俺をその気にさせたな。さあ踊ろう。身体を揺らして

そして、不思議なダンスを疲労しながら銃を取り出したChildish Gambinoは、頭に袋を被せられた人物の頭を、後頭部から撃ち抜いてしまう。そうして始まるフレーズが、タイトルにもなっている「This is America」だ。

This is America
これがアメリカだ

Don’t catch you slippin’ up / Don’t catch you slippin’ up
ヘマすんなよ。油断するな

Look what I’m whippin’ up
ほら丁度、シビれるのを用意したぜ

「Don’t catch You slippin’ up」という言葉は、Don’tから始まるので否定形の命令文だけど、おそらくPoliceという単語を省略していて「ヘマしても捕まらないさ」という意味にも受け取れる。それは銃で黒人を撃ち殺しても捕まらないアメリカ社会、警察や自警団が行う黒人に対する過剰な暴力を揶揄しながらも、同胞に対して「この国では油断するな」というメッセージを送っている。

 

頻発する銃乱射事件と、銃社会アメリカ

聖歌隊のコーラスが入るフックでは、社会から「カネを稼げ」と教えられることを歌っている。

しかもこの聖歌隊、全員黒人だ。厳密には違うけど、このパートのコール&レスポンスは黒人霊歌のような印象も受ける。

Ooh-ooh-ooh-ooh-ooh, tell somebody
ああ、誰か教えてやれよ

You go tell somebody
お前、教えてやれよ

Grandma told me
ばあちゃんが俺に言ったんだ

Get your money, Black man (get your money)
カネを稼げよ、小僧ってな

聖歌隊が歌うのは、普通キリストや神を讃える賛美歌であることと対照的に、世俗的なものに固執すべきと話者=社会が強いている内容だ。そして直後、アサルトライフを手にしたガンビーノに銃殺される。

黒人のキリスト信徒を銃撃するというモチーフは、ディラン・ルーフによる銃乱射事件だ。2015年6月17日、黒人教徒が集まるメソジスト系教会であるEmanuel African Methodist Episcopal Churchに白人のディラン・ルーフが乗り込み、教会内にいた黒人教徒9人を銃殺した。教会は敬虔な信者による聖書勉強会が開催されていた。

後半に出てくる「Kodak」というワードは、ディラン・ルーフが自身のウェブサイトに犯行当日アップしていた写真に写り込んでいるカメラのことを指していると思われる。

This a celly (ha) / That’s a tool (yeah)
これは携帯だぜ。いや銃かもな

On my Kodak (woo, Black) / Ooh, know that (yeah, know that, hold on)
コダックで撮ったんだ。ああ、その話はお前も知ってるか

携帯と銃というキーワードも実際に起こった事件がモチーフになっていて、今年の3月に自宅の裏庭で警官に撃ち殺された黒人の事を指していると思われる。カリフォルニア州サクラメントの自分の庭で、警官に撃ち殺されたステフォン・クラークが持っていたのは、銃ではなくただのスマートフォンだった。

ちなみにガンビーノが聖歌隊を撃ち殺す際に使っている銃は、世界中のゲリラ使うアサルトライフル「AK-47」の銃床を折りたたみ式にした「AKS-47」か「AKMS」。AKシリーズはもともとロシアの銃で、宗教や政治的な対立を表しているのかもしれない。

無表情で無残に殺される人々は野ざらしになる一方、撃ち殺すのに使った銃は赤い布に包まれ、毎回丁寧に回収される。神や命よりも、ここでは銃のほうが大切で、銃規制が叫ばれても一向に実現することはないアメリカを象徴している。

Guns in my area (word, my area)
近所は銃だらけだ

I got the strap (ayy, ayy)
ストラップをゲットした

I gotta carry ‘em
これで銃を持ち歩かなきゃな

銃だらけの社会では、皆がますます自衛のために銃を持たざるを得ない。そういうアメリカの社会。

 

エンターテイメントに隠れる社会の課題

ダンスしながらラップを披露するGambinoの背後はつねに物騒で、前に映り込む人物はどうやら機動隊のような格好をしているひとも。

ただ全体として背景にはピントは合っておらず、国内外のレビューサイトやニュースでは「エンターテイメントに気を逸らされて、本質的な問題に目を向けることができない」ということを表しているそうです。

炎上している車は暴動やテロを彷彿とさせるけど、その手前で踊っているダンスは、SNSで話題になっているダンスだ。

 

ドラッグとカネと、ギャング

ドラッグへの言及も。アメリカは日本よりもドラッグが蔓延しているとか、映画でもよく言及されますが、それがエンタメとして成立していることの矛盾も表現しているのかも。

Hunnid bands, hunnid bands, hunnid bands (hunnid bands)
10万ドル、10万ドル、10万ドル

Contraband, contraband, contraband (contraband)
密輸品、密輸品、密輸品

I got the plug on Oaxaca (woah)
俺はオアハカの奴らとコネがあるんだぜ

They gonna find you that blocka (blaow)
お前がどこにいても、奴らは見つけ出すぜ

オアハカというのは、ただいま麻薬戦争で目下ギャングの国となってしまっているメキシコの街(実際は映画のイメージからくるもので、オアハカは比較的治安良いらしい)。

allartesania.com

メキシコのギャングと麻薬に関しては、たくさん映画があるのでまた今度まとめてみようかなと思います。

 

半裸で踊る奇妙なダンス

映像の全編を通して、Gambinoは半裸でダンスなのか、単なる動きなのか、現代舞踏のような動きをしています。これはFela Kutiへのオマージュだとも。

Fela Kutiは1970年代から80年代にかけて活躍した、ナイジェリアのミュージシャン。僕は大学の頃に知りましたが、通称「Black President」。音楽の系統としてはファンクやジャズといったテイスト。

ナイジェリアという国は軍事政権でしたが、反対するFela Kutiは自分の家を勝手に「カラクタ共和国」と名乗って独立宣言。軍隊に踏み込まれて母親を亡くしてしまします。その出来事をモチーフにした「Zombie」という曲もあるんですけど、かなりオススメ。

 

フィルムメーカー:ヒロムライの存在感

YouTubeのクレジットを見ると、実はこのビデオを制作した監督は、日系のヒロムライという方みたいですが、初めて知ったいろんなMVを手がけている様子。Gambinoの過去作も制作しているようです。

さらにいうと、Donald Glover名義で出演したドラマ「アトランタ」の監督も手がけていました。

マーベル初のTVドラマ作品として話題となった「レギオン」の第6話で監督を務め、今最も注目を浴びている映像監督の1人であるヒロ・ムライ。東京生まれの日本人である彼が本作の大部分でメガホンを取っているとあって、異国の若手監督に国内外から大きな注目が集まっている。

“チャイルディッシュ・ガンビーノ”の名でラッパーとしても活動する本作の主演、ドナルド・グローヴァーのミュージック・ビデオのほとんどはヒロ・ムライが監督。プライベートでも親交の深い2人だけに今回最強のタッグが組まれたといっても過言ではないだろう。その他にもデヴィッド・ゲッタやB.o.B、アール・スウェットシャツなどアメリカの音楽シーンを牽引するアーティストたちのビデオ制作にも監督として制作に関わっているだけあり、アメリカの音楽文化をベースに描かれる本作との親和性の高さには目を見張るものがある。- – – アトランタ(FOX ネットワークス)

ワンアイデアで撮影したものもあれば、物語制が強いものもあったり。

Flying Lotusのミュージックビデオもやってるわ。

 

複雑なアメリカのエンターテイメント

アメリカはエンターテイメント大国として、様々なイメージを世界に発信している国ではあるけど、実際そのエンタメのモチーフは暴力であったり黒人文化であったり、複雑な事情があるのも事実。問題があるからこそ成立するアメリカのエンターテイメント業界ゆえに、エンタメとして成り立つ背景にある問題を解決できない矛盾。特にHIPHOPという音楽はドラッグや暴力描写とは切っても切れない関係。それが、娯楽として成立してしまう難しい状況だったりもする。

HIPHOPは初期はパーティーやHoodについてを、90年代以降は暴力をテーマにしてきた。これまで黒人のアイデンティティに切り込む曲というのはあったのはあったけど、「This is America」のように自分がいま歌っていることとの矛盾をテーマにするというのはとても新しいと思う。これは多分だけどグラミー賞確実だ。

最近ではKanye Westの「奴隷制は黒人の選択だった」という発言が物議をこもしている、トランプ政権のアメリカ。複雑な背景から生まれる、メッセージソングというのはこれから増えていくのかもしれません。

 

・This Is America (Childish Gambino song)(Wikipedia)

・Ludwig Göransson(Wikipedia)

・Childish Gambino「This Is America」の衝撃 なぜ話題になったのか?MVを解説(HUFF POST)

・東京生まれLA育ちのフィルムメーカー、ヒロ・ムライの風変わりな頭脳回路(VICE JApan)