「情報」には処理を行うシステムが必要という当たり前の話

プログラムを実行するには、計算処理を行うシステムが必ず必要なわけだけど、それは一般的には個人のパソコンだったり、インターネット上で接続されたサービスの運営者によって行われる。例えばプレイステーション4でよくあるゲームは、インターネット上でゲーム会社のサーバーに接続されていて、だから僕らは世界のどこかにいる、見ず知らずの外国人と一緒にチームを組んで、敵と戦うことができる。ちなみに、UBIから販売されているDivisionというゲームはリリース当初、常時100万人がプレイしていよくサーバーが落ちてた、なんてこともよくある。

こうした事象の対策としてはサーバーを強化するのが一般的だ。サーバーは1台ではなく、複数台が接続されていてシステムに対する負荷を分散して処理できるようになっている。例えばGoogleは世界中にサーバーをもっていて、一部のサーバーに不具合が起こっても、すぐに復旧できるようになって、その数は数千万台とも言われている。

 

Ethereumというプラットフォームの誕生

その昔、「World of Warcraft」という世界最大のMMORPGをプレイしていた少年は、お気に入りのキャラクターの能力値がゲーム運営会社の調整によって弱体化されたことにショックを受けて、中央集権によらない自由な世界を夢想した。その少年が、Vitalik Buterin。彼はビットコインを参考にして、分散型のコンピュータープラットフォームの基礎を開発した。それがEthereumだ。

イーサリアム(Ethereum)はネットワークを管理する「中央集権的な管理者」が不在の、分散型コンピューティング・プラットフォーム。Ethereumのプラットフォームに接続すれば、ユーザーは様々な処理を実行してもらうことができる。一方で、その処理の実行を代行したユーザーは、コンピューティングシステムに貢献したと見なされ、ETHと呼ばれる報酬を受け取ることができる。処理を実行するのは、見ず知らずのユーザーだ。

普通見ず知らずのひとに重要なものを任せるのは気がひけるけど、処理を実行するパブリックノード(処理するユーザーというか、サーバーのこと)は15,000くらいあって、全員が全く同じ台帳を使うことで、悪意ある改竄などを防ぐように設計されているから、証券のような信用査定コストはほぼゼロだ(プラットフォーム自体を信用する必要はある)。

だから例えば、どこかに荷物を発送したいと思ったとき、普通は信頼ある運送会社に発送をお願いするものだけど、Ethereumのプラットフォームに置いておけば、誰かが勝手に目的地まで届けてくれる。そして配送するひとにも、きちんと配送を行うインセンティブがある。そういうもんだと思ってもらえれば良いだろう。ちなみにETHは報酬として定義されているので、ネットワーク上では一種のポイント、通貨のようなものとして使うことが可能。なので、ETHは仮想通貨とも呼ばれている。

ノードが共有する分散型の台帳と、ETHというインセンティブの仕組みを使えば、プラットフォームを利用したいと思うひとは、いろんなことを実行することができる。例えば、特定の条件下で発動するプログラムをつくって、それを絶対ルールとした組織をつくることもできるし、ETHはプラットフォーム上では通貨として扱われるので、資金集めをしても良いかもしれない。さら言えば、自分の肩叩き券ポイントのようなものを、トークンとして発行すれば、自分と家族だけのポイントカードをつくることだって可能だ。

Ethereumの分散型台帳には、それら世界中の情報が一本の台帳(これをブロックチェーンと呼ぶ)として管理され、全世界のノード間で共有・同期されている。

 

分散コンピューティングは既に実績がある

インターネット上でつながったユーザー同士が、様々な処理を分散して行う、というのはアイデアとしては結構前から実用化されているものだ。そのほとんどは、家庭のパソコンでも参加できるもので、基本的には「余剰な」計算能力をインターネット上でプロジェクトに渡すことで、手軽に貢献することができる。

有名なのは、世界の生体工学関連のプロジェクトに貢献できる「World Community Grid」で、既に75万人がHIVの解析や、がん研究の解析に貢献している。

他にも宇宙からの電波を解析して、知的生命体に起因する特徴が含まれているかを解析する「SETI@home」プロジェクトは2000年代から行われているし、極め付けは「Foldit」だ。これはパズルゲームの一種なんだけど、ゲーム自体がタンパク質分子の立体構造を予測する仕組みになっていて、研究者が10年かけても解けなかった問題を、Folditの上位ユーザーは3週間で解いてしまった。

 

後にこの問題を解いたプレイヤーの名前は、実際の論文にも記載されて、科学誌Natureに登場。センセーショナルな事例として海外では大きな話題にもなった。

 

Ethereumがアップデートしたもの

これまでにもあった分散コンピューティングの仕組みを、Ethereumはアップデートした。これまでの技術との違いを簡単に列挙すると、具体的には3つある。

  • 分散型のブロックチェーンであること
  • 通貨というインセンティブを採用したこと
  • 自由に処理を依頼できるプラットフォームにしたこと

プラットフォームを管理する「中央」を廃止するために、誰もが同じブロックチェーンを共有することで、悪意ある改竄ができない、分散台帳技術を採用。そしてプラットフォーム内を自由に行き来できる通貨「ETH」を定義することで、人々をボランティアとしてではなく、純粋な経済合理性としてプラットフォームに貢献させることに成功した。

この「ワールドコンピューター」は、そのリソースを誰もが自由に使うことができる。Ethereumの開発言語「Solidity」を使えば、Ethereumプラットフォームで稼働するプログラム「スマートコントラクト」を設置可能だ。

ブロックチェーンの改竄は原理上とても難しいものなので、例えば法人や不動産の登記、住民登録なんかのデータを全部保存しておくこともできる。現在ではEthereum上で動くゲームはいくつかあって、それは開発者が開発を放棄したとしても、Ethereumが存続する限り半永久的に存在し続けることが可能だ。

そして現状で最も人気があるのは、ETHを通貨としてEthereum上で事業ファンドを設立する「ICO(Initial Coin Offering)」。このスキームは、株式による資金調達と同等なものだと世界中で見なされつつあって、そのうち金融規制の対象になるだろう。

Ethereumは、世界のコンピューターリソースを繋げることで、誰もが自由にそれらを使えるような平等な世界を志向している。現状でできることは送金やICOといった基礎的なものに限られるわけだけど、あと数年もすれば、僕らは日常的にコンピューティング・リソースにアクセスすることで、様々な情報を処理することが一般的になるんだろうなあと僕は思っている。

(2に続く)