分散型コンピューティングの新しいプロジェクトとして、日の目を浴びつつあるEthereumについて、どんな風に活用される未来があるのか考えてみたいなあと思って、前回の記事ではまずはざっくりとEthereumの概要について紹介してみました。今回はちょっと突っ込んで、どんな風に使えそうか考察してみたいと思います。Ethereumの概要についてはこちら

テクノロジーはある種、悪魔的な魅力をもっている。テクノロジーはこの世界の様々なものをより良く改善できる一方で、「良い」とされるものはテクノロジーによって定義されてしまうから、僕らはいつまでたっても理想郷にはたどり着けない。

鉄腕アトムやドラえもんが登場するはるか昔から、僕たちは絶えず未来を夢想し、実際に実現してきた。革新的な技術は、次の技術の呼び水となって、社会はどんどん変わっていく。変われないのは悪だとされて、現代社会ではデジタル技術を使いこなせないひととの格差を、僕らは「デジタル・ディバイド(情報理技術のリテラシー格差)」と呼び、終わることのない呪いは、瞬きでもしたら最後。次の瞬間には、その呪いはこれまでよりずっと増えている。

話をEthereumに戻そう。

前回の記事で「Ethereumは分散型コンピューティングのニュータイプだ」と書いたわけだけど、Ethereumの場合、実は「処理」の定義が、ちょっとこれまでのものとは異なる。「World Community Grid」のような分散コンピューティング(グリッドコンピューティングとも)が志向するのは、たくさんの民生用コンピューターを繋いで計算能力をスーパーコンピューター並みのレベルにする、という理想である一方、Ethereumは計算能力をあげるというより、処理を分散することでトラストレスの実現を志向するものだ。計算能力ではなく、信用保証力を高めるためにネットワークを分散化しているのがEthereum。

ネットワーク自体を信用して、何を行うかというと契約に関する処理で、Ethereumはこの仕組みを「スマートコントラクト」と呼んでいる。契約と言っても、用途は契約書類だけじゃない。

例えばゲームだ。ゲームはブロックチェーン技術とスマートコントラクトによって革新できる最有力候補であるとされている。ジャンルにもよるけど、ゲームに必要とされる要素のうち、高度な処理を必要としないものは結構たくさんある。育成ゲームや、カードバトルの形式をとるもののほとんどは、その処理にスマートコントラクトを使えば、中央サーバーを必要とせずにゲームを半永久的に動かし続けることが可能だ。

ゲーム以外にも、Ethereum上で稼働しているアプリ(Dappsと呼ばれる)も既に存在する。

Augurと呼ばれるアプリケーションは、予測市場をイノベーションするために生まれた、Ethereumを代表するアプリケーションだ。これは簡単に言うとオンライン上で行われる賭け事で、人々は自由に「特定の事象が発生する」ことに対して賭け事をする。W杯はどこが勝つかなんてものから、大統領選まで様々なお題があって、ユーザーはREPと呼ばれるEthereumを使って発行されたトークンを使って賭けを行う。Augurに参加するのは賭け事をするためだけではなく、事実を判定してトークンを稼ぐひともいて、参加者は正確な報告が義務付けられるようにインセンティブが設計されている。これは将来的には、保険料を適切に設定するためのプラットフォームとして成長するだろうとか言われている。

スマートコントラクトという仕組みを使えば、今はまだ発明されていない、新しい仕組みで市場を創造することができるだろう。それは人的であてにならない信用保証を必要とせず、僕にとっては真に自由で、広大なインターネットそのもののようにも見える。

Ethereum上で動くDappsは徐々に増えてはいるものの、それらを使うユーザーがまだまだ少ないっていうのは課題だ。現状は特殊な用途にしか適応されていなくて、もっとより一般的なもの。例えば住民票の管理まではいかなくとも、Tポイントといったポイントシステムとか、そういったものすら立ち上がってはいない。卵が先か、鶏が先か、ユーザー数と使えるアプリケーションの数には相関関係があると思うけど、ETHで資金調達をするというICO(Initial Coin Offering)を除けば、Ethereumを積極的に使う意義のある、魅力的なキラーアプリは未だ現れていない(厳密にはICOはスキームであって、Dappsでもない)。

公的な機関や銀行、一般企業がEthereumのプラットフォームを使えば、便利になることはたくさんあるだろう。ただし、心理的なハードルは依然として高い。オープンソースなプロジェクトであるEthereumは、ネットワークを適切に処理すべきというインセンティブは発生するものの、脆弱性が完全にゼロというわけではない。

Ethereumユーザーにとって、悪夢として記憶されている事件はいくつかある。最も有名なのが「The DAO事件」だ。

DAOは「運営が資金管理を行うという中央集権的な投資からの脱却」という崇高な理念を掲げてはじまったプロジェクトだった。DAOを通じてETHを送金し、トークンとしてのDAOを入手することによって投資に参加でき、DAOプロジェクトの投資先は参加者の投票によって決めることができた。これは素晴らしいプロジェクトだ。

しかし、この仕組みの脆弱性をついた悪意あるハッカーは、参加者のトークンをETHに変換し65億円という巨額な資金として盗み出すことに成功した。この事件をきっかけとして、Ethereumの参加者は「改竄されていない(単に盗難されただけの)」ブロックチェーンを巻き戻すべきか否か、議論を始めた。結局見解が分かれた開発サイドは分断され、Ethereumはハードフォークし、Ethereum Classicという別プラットフォームもできている。盗難が起きたからといってチェーンを巻き戻すべきではない、とClassic派は主張したのだった。その他にもParityというウォレットはバグによって、利用者は資産が凍結状態に陥ってしまったこともある。

発生した事件のいくつかは、厳密にはEthereum自身のバグとは言えないものの、依然としてスマートコントラクトにはバグが存在する潜在的なリスクはある。もちろん、Ethereum以外の既存システムに完全に脆弱性が無いか?と言うと、それも違う。2000年問題でゆうちょ銀行のATMはストップしたこともあるのは有名な話だ。

Ethereumは新しい利用ユーザー数を増やし、これまでよりもさらに大きなプラットフォームとして成長することが求められている。そのためには、広範囲におよぶ利用シーンを想定するような、大掛かりで魅力的なDappsの存在は欠かせない。なのでEthereumファンは、上場企業や金融機関、行政による利用を声だかに叫んでいる。だが企業や行政は、万が一とは言え、潜在的に脆弱性を孕んでいると言われるものを基幹システムに採用するだろうか?

この疑問に答えるなら、二つシナリオがある。

一つ目は「採用しない」だけど、オフィシャルでも、NGOやNPO団体が資金管理にEthereumのプラットフォームを使うのは良いことかもしれない。将来的にはそういった団体も、ベンチャー企業の資金調達ラウンドのように運営フェーズが定義され、世の中への貢献を評価されることが普通になる、という未来は十分にありうる。このことは不正の隠れ蓑になっている団体を駆逐することにも貢献できるだろう。

もう一つのシナリオとして考えられるのは、採用するシナリオ。ただし前提として、国がEthereumプラットフォームのノードやマイナーとして、一定の責任を負っている状態というのが理想だ。現状のプラットフォームはある程度分散化されているとは言え、特定の私企業が占める割合のほうが多い。

各国がプラットフォームに参加していて、そのシステムを適切に維持・強化するインセンティブがあれば、参加国のユーザーは行政や一般の社会生活で、プラットフォームのコンピューティングリソースを使える。

こけまできて、あら?と思った方もいるかもしれない。そもそも分散型台帳技術というのはトラストレスを志向した仕組みだからで、それが普及するために何らかの後ろ盾が必要というのはちょっと本末転倒なんじゃないだろうか?一般ユーザーが、もっと広範囲な用途で使いはじめた後で、公的な機関によるノード設置が増え始める、というのはあり得るが。

結局僕らが新しい社会の仕組みを受け入れるのは、国の後ろ盾か、マーケットを創造する気概のある誰かが必要だ。ADSL時代の初期に、ほぼ無料でモデムをばらまいた孫正義のような海賊が。

Ethereumを含めた分散台帳技術によるプラットフォームが本格的に普及していくのは2020年以降ぐらいからだろうなと僕は思っている。一方で、この技術は社会のニーズから生まれたというより、社会のニーズがもはや追いついていないことをも意味しているんじゃないだろうか、とも思う。そういう意味でVitalik Buterinは天才かもしれない。

スマートコントラクトは人間と人間の間に邪魔な第三者を挟まず、理想郷的なインターネット空間を想起させるけど、この技術によって引き裂かれる人間性のようなものがあるとしたら、どんなものだろう?最近そういうことを考えている。

 

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