進化が難しい音楽機材業界

DJやDTM(DAW)の機材というのは実はここ10年の間、画期的な進化をしたとは必ずしも言い難い。

もちろんプリセットから鳴る音自体のクオリティは上がったし、それを支えるためのメモリー、バックパックにも入る軽量化、USB給電でコンセント不要・・・性能が向上した点を挙げればキリは無いのだけれども、例えば音楽の一ジャンルを切り開くほど突出した機能を実装したハードウェアというのは、ほぼ無いと言ってもいいだろう。だから最近の傾向は大抵「USB給電でコンセント不要になりました」「オーディオインターフェース内臓」みたいな感じで、機材に内臓された音自体が何か画期的かというと、実はそうでもない。もちろんこの潮流は、音楽制作がパソコンでの作業に移行していることと関連していて、音自体はソフトウェアでつくりだすものになってきていることも要因のひとつとしてはあるだろう。

そういう事情もあってか、いまDJやDAW向けの機材を新しく開発するというのはかなりチャレンジングな事業なのだ。だって10年前に発売された機材でも、十分レコーディングに耐えうる音質や機能を備えているんだから、新製品を買ってもらうだけの機能を考えるというのは、相当ハードルが高い。

だから最近各社からリリースされる機材の特徴っていうのは大抵似てる。「液晶ディスプレイでタッチ操作もできます」「パッドが7色に光ってリズムが分かりやすい」とかとか。強いて違いを挙げるとすれば、それぞれが特定のプラットフォームに対応していて、それぞれに囲い込もうとしていることぐらいなのかもしれない。今年のはじめごろに2020年の動向としてさらっと書いてみたけど、こういう状況で起こるのが予想されるのは「価格の低下」なんじゃんじゃないかなと思っていて、そろそろ中国発のDJ機材メーカーが台頭してくるのではないかなと思っていたりもする。

廉価機材ブランドがとった奇策は・・・もろパクり?!

そんななか、もともと良心的な価格でハードウェアを制作していた、機材ブランド「BEHRINGER」がまさかの奇策に出た。というのは、最新の機能を実装するのではなく、他社から発売された往年の名機を徹底的にパクることだった。

最初にリリースが出されたのは2018年の暮れぐらいだと思うけど、2019年はじめに動画も公開されて、誰しもが「これはRolandの・・・」と思ったはずだ。さすがに海外勢は肝っ玉が据わっているなあと思う。ちなみに特許自体は出願から20年以上経っているので、違法ではないといえば違法ではない。

BEHRINGERから発売されている「RHYTHM DESIGNER RD-8」は公式には名前が触れられていないわけだけど、おそらくはROLAND社が1980年代に発売していた伝説のリズムマシン「TR-808」のクローンモデルになっていて、外観もさることながら、その奏でるクラップ音も本物そっくりになっている。

TR-808については過去の記事でも書いたけど、全世界のポピュラーミュージック制作現場で使われた、世界を変えた名機といっても過言ではないモデルだ。SpotifyではROLAND公式プレイリストも合って、Marvin GayeからDrakeにいたるまで様々な曲が含まれているのでチェックして欲しい。

TRシリーズは、これまでプリセットだったリズムを自由にプログラミングできるようにしたことで、世界中でこぞって使われるようになった。1980年に発売された「TR-808」はMarvin Gayeの名曲「Sexual Healing」でも使われている。

この自由なリズム制作環境は、ミュージシャンからすると画期的で、打ち込み方を知っているひとがいれば、誰でも音楽を作ることができるようになる時代の到来を意味していた。

Roland発DJコントローラー DJ-808/DJ-505/DJ-202 に注目する理由

BEHRINGERの「RHYTHM DESIGNER RD-8」はただのパクリかとうとそうでも無いところがポイントで、絶妙にボタンの配置や機能も今風になっていて、単なるロマンに留まらない、使える機材だということも一応書いておきたい。

一方でROLANDも対抗措置を準備

黙ってはいられないのがパクられたROLAND。つい最近は国立科学博物館の重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)としても表彰され、国を代表するプロダクトと言っても過言ではないその地位を守るために、ついに動いたのが去年の立体商標登録騒ぎ。

海外ニュースサイトの「Create Digital Music(cdm.link)」によると、ROLANDはドイツでTR-808と姉妹機として知られるTB-303の立体商標を登録出願したとされている。

The “trademark” here is trade dress, the design of the actual appearance of the 303 and 808 – the signature layout of the keyboard and knobs of the 303, and the sequence of colored buttons on the 808. “Iconic” is a word that’s wildly overused, but here we can take it to be almost literally true: you can draw out these layouts and even a lot of lay people with a passing interest in electronic music will immediately recognize this bassline synth and drum machine.

ここでの「商標」とはトレードドレスであり、TB-303とTR-808の実際の外観の設計ーつまりそれはTB-303のキーボードとノブの特徴的なレイアウトと、TR-808の色付きのボタンの並びだ。象徴的という言葉ほど使い古された言い方はないが、読者の皆のほとんどはこのデザインは象徴的という言葉にほぼ当てはまると見なしてくれるだろう。これらのレイアウトを見れば、電子音楽に興味があるひとであれば、すぐにシンセサイザーのベースラインとドラムマシーンを認識することができる。

Roland has registered the 303, 808 designs as trademarks(cdm.link)

商標としてはノブの配置とボタンのカラーリングということになるんだろうけど、これに対してBEHRINGERはこの出願をもとにしているのか、ボタンの色配置を逆にしたりして、商標という制度ハックを試みているようにも見える。

最近のROLANDはこういった取り組みを、往年の名機以外にも広げようとしている。国内では、特徴的なエフェクターモジュールのデザインを立体商標に出願しているようだ。

過去の名機自体は依然として需要がある

ROLANDが対策するのはもちろん企業として当たり前の話なんだけど、ROLANDもこの過去の栄光をもとに事業を展開しているところは理由のひとつとして大きいんじゃないのかなとも思う。ちょっと前から、ROLANDはTR-808をはじめとした名機をコンパクトサイズにしたシリーズを発売していて、アナログ派のDTMユーザーにはとても人気を白している。

Roland / Boutique TR-09 Rhythm Composer
Roland(ローランド)

ROLANDのクローンモデルシリーズは他にもあって、例えばArp社のODYSSEY(現在はKORGも復刻している)クローンである「ODYSSEY」、SEQUENCIAL CIRCUIT社のPRO-ONEクローンの「PRO-1」、さらにMOOG社「Minimoog Model D」のクローンである「MODEL D」「Poly-D」なんかがありますね。最近のBEHRINGERはかつての安価な機材ブランドから完全に脱却していて、完成度もかなり高いので結構オススメではあります。

なんでもパソコンのなかで作曲できるようになっても、やっぱりハードウェアにはロマンを感じちゃうよね。

 

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