David MancusoというDJのパーティーは、かつて「一晩を通した素晴らしい物語」と言われていたらしい。DJの選曲は物語であって、無機質なジュークボックスじゃないってことを上手く言い得ている。DJにとっての一つひとつの楽曲は、一晩の物語を紡ぎ出すための糸になっていて、そこには優劣はなく、コンテクストだけがある。

だが有史以来、人類はいろんななものを格付けし、優劣をつけてきたことも事実だ。

フランスではワインの品質を守るために等級が法律によって義務付けられたし、ミシュランはレストランガイドをより読みやすくするために、その評価を星の数で表現するという工夫が試みられ、これは実際大成功した。

評価を数値に変換するというのは、大多数のひとにとってかなり大きな恩恵をもたらしたと言えるけど、一方でここ数年のIT業界を見るに、それが良いことだったかどうかは、正直論争を呼ぶテーマだと言わざるを得ないと、僕は思ったりもする。

Amazon内では現在、販売者から金銭を受け取って商品をAmazon上で購入したうえで、高評価をつけてレビューを記載するという裏稼業が蔓延していて、一見すると高評価の商品でも、いざ届くと劣悪な欠陥品だったなんて話は多い。食べログでも、(Amazonのようにレビューを人海戦術で増やすサービスを提供している会社もあるが)偏った評価で星をつけるユーザーが増えて炎上した結果、星評価はアルゴリズムによって管理され、現在は星5ばかりの評価をつけるひとはアテにならないということになっている。商品にしろ、体験にしろ、レビューというのはその対象に感動して書くものだから、必然的に評価が高くなることは予想される事態ではあるのだけれども、アルゴリズム上ではそういうユーザーはアテにならないんだそうだ。より広範囲に、より公平にプラットフォームへ貢献するユーザーが、プラットフォームから評価される。Amazonの星評価にも、実はそういうアルゴリズムが実装されている。 だから僕らが見ている星は、単純な平均値ではない。

そんな杞憂にも関わらず、星評価はますます一般的なものになりつつある。近年では、特にGoogle、Amazon、Facebook、Apple・・・。テックジャイアントが牛耳る映画、音楽といったエンターテイメント販売プラットフォームでは、その評価は0.5でも上下に移動するだけで、販売への絶大な影響がある。

もちろん商品だけじゃなく、人間関係にもこの原理は簡単に適応可能だ。送迎サービスのUber(とUber Eats)では、利用客としての僕はサービス提供者から絶えず評価されていて、★5として評価されている利用客としての僕は、かなり礼儀正しい客と言えるだろう。ただし、今後の行動如何によっては、★2にランクダウンする可能性もあるし、そうなれば普通のドライバーは僕をクルマに乗せたいなんて思わないだろう。部屋にテイクアウト料理を持って来てくれるなんて、もってのほかだ。

良い意味でも悪い意味でも、評価に左右されやすい人間の特性をテックジャイアンとは熟知していて、意図してその表記方式を採用している。もしこれを読んでいるあなたが、1800年代からきたタイムトラベラーなら、迷わず特許か実用新案を申請しておくべきだ。評価方法がシンプルになればなるほど、巨大なプラットフォームが有利になるのは想像に難くない。3人による★5と、576人による★4はどちらが信憑性が高い評価だろうか?聞くまでもないだろう。

そんな、あらゆるものが星評価主義に傾きつつある昨今の風潮に反旗を翻したのが、音楽メディアResident Advisorだ。僕は正直、この何の変哲もないプレスリリースのようなテキストを一読して、いたく感激してしまった。

今後、シングル / アルバム・レビューに数値評価は含みません。

Resident Advisorはレコード・レビューに点数評価を含むことを以後廃止します。

今回の変更は、今後数ヶ月にわたって実践を予定している、サイト上の音楽の取り上げ方における変更点のひとつです。変更後の「レビュー」は、今後も意見をしっかりと持った批評であることに変わりはありません。つまり「レビュー(批評)」としてあり続けます。違いは、点数をなくすことで、音楽を格付けする主張を行いません。

RAは「レビュー」で点数を付けることを廃止する – – – Resident Advisor

RAはエレクトロニックミュージックを主に扱っている媒体で、メジャーな楽曲はもちろん、アンダーグラウンドなシーンもこれまで積極的に取り上げてきており、ダンスミュージックシーンへの貢献は計り知れない。そんな世界屈指のミュージックマガジンによる、自身の決断を取り上げたニュースは、ただならぬ意見表明のような、力強い意思を感じさせる。

RAのこうした画期的な取り組みは、今に始まったことでもない。イベントレビューは数年前からスコア表記が無くなっているし、2000年代半ばから2010年代半ばまでの恒例行事だったベストDJ、ベストアクトを選出する読者投票を廃止した。投票への選挙活動が過激化するDJ MagのDJ総選挙(なのでDJ Magは商業主義を助長していると世界で揶揄されている)とは一線を画している。

音楽を格付けしながら紹介するのは、限られた予算で購入を考えなければならないユーザーにとってメリットは大きい。この新譜は買うべきか?無駄遣いを避けたいと思うユーザーには重要な指標だ。

だけど、真面目に考えてみると奇妙な話でもある。★5の評価がついた商品と比べて、★4の商品は何か劣っていることがあるってことだろうか?★3以下のCDに音楽的な価値が無いなんてことが、果たしてあるだろうか?格付け評価ほど、(ある程度は便利であることを否定はしないけれど)本質的には空虚なラベリングはなかなか無い。

本質的な批評へシフトする、というRAの編集方針は恐らくGoogle検索的にも有用だ。良い悪い、という二元論から脱却し、リリースされたトラックの背景やシーンのコンテクストのなかからレビューを生み出そうという試みは、オリジナリティの高い記事を執筆するのに方針として役立つ。オリジナリティの高いレビューは、Googleのアルゴリズム的にも評価されやすいし、結果として新しい読者の獲得にも繋がる。レビュー以外の領域でも、検索を見越した方針というのは恐らくあって、もともとニュースサイトとしての色が強かったRAの記事は、近年百科事典のようになりつつあるのだけれども、それはフロー型のニュース記事コンテンツよりも、ストック型のオリジナル記事のほうが、検索に強いウェブサイトになるからだ(検索したときに上位表示がされやすい)。

最近のRAが窺い知れる今回のニュースはとても面白い。それはテックジャイアンに飲み込まれずに、如何にメディアとしての矜持を持つかという点と、デジタル自体のメディアの生き残り方を指し示しているから。

 

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