レコードってエロいからな

「まあ、レコードってエロいからな」

という名言を放ったのは僕の大学のときの先輩で、入学したての頃に先輩の部屋で盛り上がったときに出た言葉なんだけど、絶妙なニュアンスを見事に表現しているなあと感心したのを覚えてる。

それを思い出したのは、Cercleチャンネルで100% Vinylと謳ったプレイしている動画を見たからだ。そうなんだ。レコードは確かにエロい。

全ての楽曲がデジタルデータとして管理できて、iPhoneやiPadでもDJができるようになった現在、CDでDJしようとするひとは少ないわけなんだけれども、依然としてレコードでDJをしたいというニーズは根強い。音質が良いとかレコードでしかリリースしていない音源があるからとか、理由としてはいろんなものを挙げるひとがいるけど、一番の理由は機能的にも情緒的にも物理的なデバイスだからってのが一番なんじゃないかと、僕は思ってる。

レコード使い定番の動作。DJブースやレコードショップの定番ですね。

クラブのDJブースでプレイしているとき、DJは基本的にフロアの雰囲気を掴みながら、その場に合わせて選曲を決めていく。客の入りが少なければ間をもたせるために準備運動っぽい曲を鳴らすし、フロアで十分な人数が踊っているような状態であれば、フロア全体の一体感を出すため、徐々に徐々にアップテンポな曲をかけて盛り上がりポイントの分かりやすい構成にチェンジしたほうが良い。

こういうときメディアがレコードだと選曲がかなり捗る。DJというのは大抵曲の雰囲気をレコードジャケットで覚えていることも多くって、ガンガンあげたいときに使う曲は〜という感じでパッと閃いた曲をケースのなかから探していく。このときラップトップ(PC)だともちろん楽曲リストにジャケットのサムネイルはあるけど小さいし、12インチレコードならお目当てのレコードをサクサク探すことができる。

物理的な検索性というのはとても重要で、一挙手一投足が重要なDJの場合、パッと閃いてケースからパッと取り出す、というこの素早さは実際DJのパフォーマンスにものすごく影響する。

レコードってだけでズルいぐらいオシャレ感

それに動作そのものも、DJにとってはとても象徴的なものだ。ポリ塩化ビニールという本来繊細な素材はホコリにも弱いので丁寧に扱わなければならない一方で、クラブのDJブースという劣悪な環境にそれを持ち込むっていう、ある種矛盾した行動そのものがロックな感じもする。

DJはスリーブからレコードを取り出し、クリーニングクロスで丁寧に埃を払ったあと、ターンテーブルの上に乗せたあとはゆっくりと針を落とす。その一挙手一投足は、まるで洗礼の儀式のようでもあり、神聖な空間なのなかでDJはある意味宗教的な指導者にもなっていると言っても過言ではないだろう。

ロータリーミキサーの復権

ALPHA RECORDING SYSTEM – MODEL9900 PRO

アナログ的なデバイスやツールは、神聖なDJたちのイメージをより一層強化する。ロータリーミキサーが復権しつつあるのは、単に音質が良いというだけでなく、もっと情緒的な理由のほうも少なくないような気がする。

ロータリーミキサーは現在の一般的なフェーダーミキサーと比べて、仕様上より細かなレベル調整が可能になっていて、故に楽曲ごとの音色に合わせてこまかなミックスが可能になって、結果としてフロアの音は抜群によくなる。

というかもともとクラブでは、フェーダーミキサーが開発される前まではロータリーミキサーが一般的だった。Paradise Garageがその良い例だ。

Paradise GarageのLarry LevanとUrei

レコードをかけるターンテーブルは「(MCカートリッジの)Thorens 125」ミキサーはDavid Mancuso御用達だったBozak社製のものをカスタムし(後にUREIになったそうだ)、UREIのEQ(イコイライザー)を経由して、改造されたRLA X2000から爆音が生まれていた。

DJ時代の幕開けから、PARADISE GARAGEまで

だから創世記のレジェンドDJたちへのリスペクトという意味で、ロータリーミキサーを愛用しているDJというのは結構多いんじゃないかなと思う。ロータリー派を公言するトップDJも多いし、アマチュアDJ向けではなくてもロータリーミキサーを購入したいというひとは増えてきている。

この丸ノブだけで構成されたツラ。昔の戦闘機のコックピットみたいでかっこいいよね。

ものすごくデジタルになって、物理フィーリングがもっと重要になる

僕はNative Instrumentsの機材がとても好きなんだけど、もともとNI社のソフトウェアの出来が素晴らしかったから使い始めたのだけれど、最近ではそれに加えてハードウェアそのものに中毒性があることに気づいた。

PCDJソフトであるTRAKTORに対応した専用デバイスである「TRAKTOR KONTROL」シリーズのノブは、触っていてとても気持ち良い。押し込み式のノブも便利だし、回した際のちょうど良いクリック感が、プレイ中の細かなパラメータ調整をスムーズに行うのにとても役に立つのだ。

Native InstrumentsのTRAKTOR KONTROL S4の触り心地は素晴らしい

そして現在最新のモデルになっているTRAKTOR KONTROL S4(MK3)では円盤型のジョグダイヤル自体にも物理フィードバック機構が設けられた。つまり、このジョグダイヤルを触ると、楽曲に設定したキューポイントで振動したり押し返したりする感覚を指先から感じることができるようになった。これは超絶に気持ちが良いし、操作感としても無茶苦茶便利。

これはNative Instrumentsが新しいDJプレイ体験をデジタル的に追求した結果の副産物なんじゃないか?僕はそう思っている。

デジタルに移行するにつれてアナログレコードやロータリーミキサーが復活してくるように、デジタルな操作が可能になればなるほど、0と1の連続でできたデジタル体験を、指先で感じられるように身体的に「翻訳」する必要がある。これはなにもDJだけに限った話じゃない。携帯電話を指先で操作できるようにしたスマートフォンのように、デジタルになればなるほど、「物理的・情緒的な体験としてどうあるべきか」というのを設計することがますます重要になるんじゃないだろうか。

それを考えるときに「やっぱレコードってエロいな」っていう感覚が、また大事になってくるんじゃないかな。そう思う。

 

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