スコットランドの首都エディンバラというと、映画「トレインスポッティング」の舞台として有名だ。

エディンバラはその昔、人口過密で住む場所がなくなり、貧しいひとたちは汚水の浸み出してくる地下街に住んでいたのだけど、ペストが流行してしまい、地下に住んでいた人々は丸ごと生き埋めにされてしまったという悲惨な歴史をもっている。その後政府は、埋められた旧市街を見捨て、別の場所に新市街をつくることにした。そのおかげか、旧市街は皮肉にも趣のある建築物が残っている。

トレインスポッティングの舞台である旧市街は、そんなこんなでお世辞にも治安が良いとは良いがいたわけなんだけれども、オーディオ通からすると「エディンバラ」という名前は、スピーカーの名前としてのほうがよく知られてる。そのスピーカーを製造しているブランドが、こちら。

TANNOYという会社は、1926年にロンドンでラジオ関連の部品メーカー「Tulsemere Manufacturing Company」として創業。その後1928年に現在の社名である「TANNOY」に社名変更。TANNOYというのは「Tantalum(タンタル)」と「Lead Alloy(鉛合金)」にちなんでいて、創業当初製造していた、電流の流れを一方通行にする整流器に使われていた素材からきてる。

TANNOYのEdinburghは、贅沢なフロアスピーカーとして80年代から90年代にかけて人気だったこともあり、長嶋有の小説にも登場する。突然、隣家の住人に小学生の娘を押し付けられるところから始まる、奇妙な共同生活を描いたこの短編は、作者が家電好きということもあってか、描写に嫌味がなくて好きな話のひとつだ。

TANNOYは、低音を鳴らすウーファーの中央部に、高音を鳴らすツイーターがハマった同軸スピーカーが有名。同軸になることで音の位相(位置)ズレが起きにくくて、ピュアリスニングに最適な高級スピーカーになってる。だからTANNOYのスピーカーと聞くと大抵の場合は高級スピーカーのことを指すわけだけど、普及機のなかでも最も有名なのが、1982年から2002年まで販売されていた「Edinburgh(エディンバラ)」。

大人になるにつれて、そこらのラジカセの音とは違うことが分かってきたが、今でも正直いって持て余していた。たまに自分で聴く音楽もこのスピーカーにふさわしいものではなかった。捨てずにいるのは、単にこれが高価なものだと聞かされていたからだ。金色の鍵もなくしてしまったから、今は中を見せることもだきない。

そんなぞんざいな扱いをしていたくせに、こうして音の違いが分かる人を目の当たりにすると、それが子供でもつい誇らしい気持ちになる。

長嶋 有「タンノイのエジンバラ」文藝春秋

僕は過去に2回だけTANNOYスピーカーの音を聴いたことがあるけど、「いぶし銀」と言われる所以はよく分からない。確かに音は良いけど、現代的なクリアで軽快な音よりも、ジャズのウッドベースのようなしっとりした音のほうが向いてる音だなあと感じたのが本音。長嶋有の小説と同じで、僕が普段聴く音楽が相応しくないということなのかもしれない(クラシックもジャズも普段から聴きはするけど、そんなに多くはない)。

TANNOYのEdinburghは当時100万円しないぐらい、おそらく70~80万円レベルのスピーカーだっとは思うけど、現在のフラッグシップモデルはもっと高い。ここくると、音質もさることながら、ロマン、という感はしないでもない。ただし、リスニングを続けても疲れないし、音は抜群に素晴らしい。

スピーカーの直径は大きいほど音を繊細に出すことができるし、ワット数もあげられるのは確かなので、リッチなひとがリスニングルームにTANNOYを置きたがるのは全然理解はできますけどね。ただこれを置いて、その性能を存分に発揮できるのは、音響特性や広さなど限られた条件を満たしたリスニングルームというのが現実かもしれない。もちろんスピーカー周辺に必要な機材の知識も必要だ。

正直いうとDJとしてはリスニングルーム用のスピーカーよりも、Reveal 502のようなモニタースピーカーのほうがオススメかな。DJコントローラーにつなげて使うレベルのものであれば、高くても10万ぐらいのもので良いかなと僕は思います。DJ向けのモニタースピーカーはこちらの記事のほうがオススメ。

「TANNOY Reveal 502」ちょっと贅沢なモニタースピーカーに

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長嶋有の小説なのなかで、主人公はスピーカーの価値をある程度は理解しながらも、やっぱりそれは記号として理解しているだけで、自分にはその価値は分からないと自分を過小評価している。ただ「タンノイのエジンバラ」では、スピーカーから良い音が鳴る、という経済合理的な価値だけではなくて、純然たる父親の形見であるっていう意味のほうが強くって、だからこそ主人公は金色の鍵を紛失してしまったことに、少し後ろめたさも感じているんじゃないだろうか。

高価な品はそれだけで意味をもつけれど、そこに対する思い入れがさらに、そのものの価値を世界で一つのものにする。そういう観点から考えると、1本1000万円以上するスピーカーというのも、あながちロマンだけではない素晴らしさがあるのかもしれません。